インビザライン (invisalign) の特徴、メリット・デメリット
アライナーと呼ばれるマウスピース型の矯正装置を使用して矯正治療を行うシステムの総称である「インビザライン」について、特徴やワイヤー矯正との比較によるメリット・デメリットを考察します。
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インビザラインとは?
インビザラインは米国アラインテクノロジー社によって世界的に提供されている、アライナーと呼ばれるマウスピース型の矯正装置を使用して矯正治療を行うシステムの総称です。2017年12月現在、世界中で500万人以上の患者さんがインビザラインを使用して矯正治療を行っております。
日本では2005年から装置の販売が開始されていますが、現在、日本国内での取り扱いとして、インビザラインは医療機器には該当せず、技工士法上の技工物にも該当しないとおされており、海外において作製されるカスタムメイド技工物とされております。
また、そのため日本矯正学会では、インビザラインの使用にあたっては、患者さんにその旨説明し、同意を得たうえで、十分な矯正学の知識と経験を有する歯科医師が個人の責任において、治療を行うようにとの指針を示しています(1)。
インビザラインの特徴
インビザラインの大きな特徴は、クリンチェックを呼ばれるシミュレーションソフトを使用して治療計画を作成し、治療ゴールまでのマウスピースを開始時に作製するところです。
治療開始に先立ってクリンチェックで治療ゴールを確認することができるので、患者さんがご自身の歯並びが矯正治療後にどのように変化するかを視覚的に確認することができ、またその治療目標を施術者である矯正歯科医と共有することができることも大きなメリットだと思います。
治療中にもクリンチェックと比較することで、全体の治療計画の中での治療の進行状況や、個々の歯の移動が当初の計画通りに進んでいるかどうかをチェックすることができます。治療途中に不十分な歯の移動が生じたりしてマウスピースが合わなくなってしまった場合など、治療計画の修正が必要になった場合には、その時点での新しく型取りして追加のアライナーを作成することができます。
治療中、患者さんはアライナーを1日のうち20~22時間装着します。当院では基本的にお食事と歯磨きの時以外は常時装着していただくようにお伝えしております。1つのアライナーを1~2週間使用した後に次のアライナーへ交換するという手順を繰り返して歯の移動を行いますが、インビザラインでは1つのアライナーの移動量が、0.25mm(回転や傾斜移動は2.0°、トルクについては1.0°)と規定されているので、歯にかかる矯正力がある程度コントロールすることができるというメリットがある一方、大きな移動を伴う場合にはアライナーの枚数が増えるため、治療期間が長くなります。
治療中には
- アタッチメント
- IPR
- 顎間ゴム
などの処置や補助が必要です。
アタッチメント
アタッチメントは、歯の移動を助けるために歯の表面にコンポジットレジンと呼ばれる歯科用のプラスティックで形成する突起物です。それぞれの歯の移動量や移動方向、移動様式によってさまざまな形のアタッチメントが設置されます。治療後には取り除くことになります。
IPR
IPRはinter proximal reductionの略で、歯の隣接面をあらかじめ治療計画で決められた量(一般的には0.2~0.5mm)だけ削合し、IPRにより得られた隙間を利用して叢生(歯並びのでこぼこ)を整えたり、歯の大きさの調整を行います。
顎間ゴム
また、顎間ゴムと呼ばれる輪ゴムのようなものも通常のワイヤー矯正と同じように上下のかみ合わせを緊密にするために使用することがあります。
ワイヤー矯正との比較
患者さんへのメリット
従来のワイヤー矯正と比較しインビザライン矯正の患者さんへのメリットとしては
- 透明で目立たない
- 取り外しが可能
- 定期的に新しいマウスピースに取り換えるので衛生的
- 通院頻度が少ない
などが挙げられます。
また、従来のワイヤー矯正では対応が難しかった、金属アレルギーをお持ちの方へもインビザラインであれば対応が可能であることも大きなメリットです。
また、マウスピース矯正治療中のプラーク量や歯周炎を示す指標はブラケット治療よりも少ないという報告(2,3)や、装置装着後に歯の痛みも痛みが続く日数もアライナー治療のデイ治療を行った患者さんの方が低かったという報告もあります(4)。
患者さんへのデメリット
一方デメリットとしては
- 紛失の可能性がある
- 装着時間が短いと歯が動かないため使用状況が悪いと治療期間が長くなる
- 新しい治療法のため治療結果の長期安定性についてはワイヤー矯正よりも不明確である
- 医療機器法対象外の医療用具であり、医薬品副作用被害救済制度の対象外である
などが挙げられると思います。
技術的には、当初は矯正治療の中でも抜歯を伴う治療は困難であるといった報告も見られましたが(5)近年では従来のマルチブラケット装置と比較しても抜歯症例の治療結果についての有意差はないとの報告もあり(6)、インビザラインで治療可能な適用範囲は大きく広がってきていますが、日本矯正歯科学会の指針でも示されているように特に歯の根を大きく移動させる必要があるような症例では治療が困難になりやすい傾向があります。
参考文献
- (1) アライナー型矯正装置による治療指針
- 日本矯正歯科学会
- (2) Braces versus Invisalign®: gingival parameters and patients' satisfaction during treatment: a cross-sectional study.
- Azaripour A,Weusmann J,Mahmoodi B,Peppas D,Gerhold-Ay A,Van Noorden CJ,Willershausen B.
BMC Oral Health.2015 Jun 24;15:69.
- (3) Periodontal health during clear aligners treatment: a systematic review.
- Gabriele Rossini, Simone Parrini, Tommaso Castroflorio, Andrea Deregibus and Cesare L. Debernardi
European Journal of Orthodontics, 2015, 539–543
- (4) Analysis of pain level in cases treated with Invisalign aligner: comparison with fixed edgewise appliance therapy
- Fujiyama K,Honjo T,Suzuki M,Matsuoka S,Deguchi T
Prog Orthod.2014 Nov 22;15:64
- (5) Complex Orthodontic Treatment Using a New Protocol for the Invisalign Appliance.
- Boyd RLら
J Clin Orthod.41(9).525-547.2007
- (6) The effectiveness of the Invisalign appliance in extraction cases using the ABO model grading system: a multicenter randomized controlled trial
- Weihong Liら
Int J Clin Exp Med 2015;8(5):8276-8282
公開日:2018年1月22日
この記事の執筆者
増岡 尚哉先生
歯科医師
博士(歯学)
日本矯正歯科学会 指導医・認定医
執筆者からのコメント
インビザラインが普及したことで、患者さんにとっては矯正治療を始めやすくなり、どの歯科医師が担当しても同じ治療結果が得られると錯覚されやすいですが、100%クリンチェックのシミュレーション通りに治療が進むことはないため、矯正歯科の専門知識に加えて、クリンチェックを的確に修正する知識や治療計画通りに行かない場合に修正する技術など、マウスピース矯正特有の知識や経験が必要であることは言うまでもありません。