大切に使ってほしい歯の6億年の歴史(1)
歯のことをもっともっと知ってもらい、生命の神秘を感じながらいかに自分たちの生活を成り立たせるか。そんな歯の知識をお伝えしたいと思います。今回はオピニオンリーダーの一人だったダーウィンに敬意を表して、「歯の進化」についてお話しできればと思います
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地球上に生命が誕生したのは、今から約40億年前といわれています。生物は動物と植物に分かれますがもちろん歯を持つのは動物に限られます。動物は背骨を持たない昆虫や貝などの無脊椎動物と背骨を持つ脊椎動物に分かれます。脊椎動物に含まれる魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類はほとんどが歯を持っています。鳥は歯を持たないじゃないか?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、鳥の先祖の始祖鳥には立派な歯があり、進化の過程で歯がなくなっていったのではないかという説が有力です。今回はそんな生物の歯の歴史を取り上げます。
歯の発現はカンブリア時代にさかのぼります
約6億年前、地球はほぼ全部海で温暖な気候だったようです。動物はゾウリムシのような形をした三葉虫が全盛期、へんてこな形をした動物が多量に発生したカンブリア爆発と言われる時代です。そんな中、初めての脊椎を持つ動物が生まれました。それがコノドント生物です。形はほぼナメクジかミミズ。今でいうヌタウナギに近い動物だったようです。コノドント生物にはまだ顎はありませんが、「歯」は口から奥まったところに規則正しく並んでいたことが化石から分かります(写真1)。「歯」の機能は、捕食や消化にかかわる器官であるという説が有力です。
進化の過程で歯は変化していく
ダーウィンは進化論の中で「最も強い物が生き残るのではなく、最も賢い物が生き延びるのではない。唯一生き残ることが出来るのは変化できるものである」と言いましたが動物たちも環境や時代に合わせて歯を変化させていきました。本来、歯は摂食のためにあるものですが、種が分化する中で捕食、闘争、発音、審美などに影響していくようになります。
脊椎動物の中で最初に発現したのは魚類です。魚類の歯は一般的に同じ形の歯が多数口の内側に向けて生えています。これは、とらえた食べ物を確実に体内に送り込むための構造です。そして、サメに代表されるように歯が取れたとしても次々歯が生えてくるような構造になっています。また構造もかなり単純で象牙質のみで構成されています。(写真2)
次に分化したのがカエルなどに代表される両生類です。彼らの最大の特徴はエナメル質があること。そのため一部の両生類には歯の形が二つの尖がりがあったりします。研究者によってはこれが歯の形の始まり、咬頭の始まりという方もいらっしゃるようです。ただ、まだまだ単純で多数の同じような歯が生えることには変わりがありません。
つぎに生まれたのが恐竜などに代表される爬虫類です。ここでまた一つ進化をします。それが歯槽を持ちあごの骨に植立するようになりました。それまでは顎の上に並んでいるだけで、強い力がかかると次々とれて生え変わる運命でしたが、あごの骨の中に生えることで強い力をかけて捕食したとしてもびくともしない歯を手に入れました。ティラノサウルスなどが活躍できたのはボロボロ落ちない歯を持っていたからかもしれません。現在生き残っている爬虫類は蛇、ワニ、カメなどですが、このうちカメには歯がなくくちばしになっています。
最後に出てきたのは哺乳類です。爬虫類が全盛の時代、小さいネズミのような哺乳類の祖先が生まれました。これまでの生物との最大の違いは、歯の生え替りが1回だけになります。また、形が複雑になり今までのただの円錐状からはっきりとした咬頭ができ咬みこむことが出来るようになります。爬虫類で力負けしない歯を手に入れさらにここですりつぶすことが出来る歯を生物は手に入れます。その結果、咀嚼を繰り返し効果的に食物を分解し、高栄養に変えることが出来るようになります。今まで丸のみだったのが、口の中で唾液をまぶし、消化することが出来るようになりました。約1億5千万年前のことです。(写真3)
単純なただの象牙質の塊が、エナメル質を獲得し、顎の骨から生えるようになり、形が変わって咀嚼できるようになるまで約4億5千万年というとてつもなく長い時間がかかりました。哺乳類がさらに栄えると歯がどうなるかはまた次の機会。
参考文献
- The origin of conodonts and of vertebrate mineralized skeletons
- Duncan J. E. Murdock¹
Nature 502, 546–549 (24 October 2013)
- 歯の比較解剖学
- 石山巳喜夫他
医歯薬出版
公開日:2017年12月6日
執筆者からのコメント
カンブリア時代から約6億年かけてやっとこんなに使いやすい道具を人類は手に入れました。6億年の重みを感じながら大切に使ってくださいね。