虫歯の治療法と治療費(料金)、治療回数の目安について教えてください
それぞれの虫歯(齲(う)蝕またはデンタルカリエスとも表現します)の状態によってその対処法は異なってきます。今回は日本歯科保存学会」による分類と、それぞれに関してどのように対処が現在標準的と考えられているか?を知っていただこうと思います。
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う蝕の分類と対処法
それぞれの虫歯の状態によってその対処法は異なってきます。学校検診などでよく「CO」とか「C」など歯科医師が助手の人へ伝えて記録している光景に遭遇することがありませんでしたか?これは学校検診などで使われる診断/分類方法です。
虫歯(齲(う)蝕またはデンタルカリエスとも表現します)の研究者が集まる、特定非営利活動法人「日本歯科保存学会」では、虫歯に関して過去の科学論文をもとにその治療法に関して一定の見解をしめした「う蝕治療ガイドライン 第2版」(日本歯科保存学会編)を書籍として、またインターネット上において無料でダウンロードできるようにしています。
それによるとう蝕は「エナメル質の初期う蝕」と「象牙質う蝕」、そして「根面う蝕」に分類して、それぞれの対処法に関して記載されています。そこで本ページではそれに従い、「エナメル質の初期齲蝕」と「象牙質う蝕」、そして「根面う蝕」に関してどのように対処が現在標準的と考えられているか?を知っていただこうと思います。
エナメル質の初期齲蝕(白斑)
この状態では適切な予防・治療を行えば、進行はせずに済むため、歯を削ったり人工材料を詰めたりする必要はありません。ただし、いったん虫歯を発症した口の中は、虫歯のリスクが非常に高いので、ちょっと積極的な予防処置を行うとメリットは大きいです。学会のガイドラインでは通常の定期健診での予防と同時に、フッ化物の塗布を年に2回行うことを推奨しています。
象牙質う蝕
エナメル質の初期の虫歯が進行すると、やがて穴の開いた状態となります。この穴を専門用語で齲窩(うか)と呼びます。
いったん歯の表面に齲窩が形成されてしまうと、そこには食片や細菌の塊(いわゆるプラーク)が溜まり、しかも歯ブラシで清掃することは多くの場合、とても困難になります。そうなると、そこではさらに虫歯が進行していく悪循環となります。そこで、齲窩の中をきれいにして、人工材料で埋め、天然の歯の形態を回復し、その部位を歯ブラシで清掃しやすくするというのが、いわゆる「削って詰める」という治療です。これは専門用語で「保存修復治療」と呼ばれます。
使う材料としては大きく分けて3種類あります。一つは金属、そしてコンポジットレジン、その他にガラスセラミック(オールセラミック)と呼ばれる材料も数種類あります。
健康保険の治療では前者2種類の材料で、金属では12%金銀パラジウムと呼ばれ、これは日本独特の材料です。自由診療ではゴールド系の材料をもちいることが多いです。
最近では材料学の進歩で、保存修復治療としてコンポジットレジンという材料が多く使われるようになりました。外観が歯に近く、また型を取る必要がないので、原則的にその場で治療を終えることができます(例外あり)。
さらに最近では奥歯(臼歯)には、より美しくまた強度を増したガラスセラミック系の材料が用いられることがあります(保険外)。
ただし、どの材料が一番よいか?に関しては、費用対効果(自由診療の場合は各歯科医院によって治療費が異なるため)、耐久性、またそれぞれの歯の条件により異なりますので、一概には言えません。上記の学会のガイドラインではコンポジットレジンを強く推奨している感がありますが、これも完璧な材料ではありません。使う材料に関しては主治医と十分に相談されることをお勧めします。
根面う蝕
近年、高齢者の人口比率が高くなり、また口の中の歯の数が多く残るようになってきたため、加齢や歯周病で歯肉が下がり、また人によっては加齢によるセルフケアが難しくなってきているため、歯の根の部分(多くが抵抗性の低い象牙質)にできる虫歯の問題が先進国でクローズアップされてきました。
この虫歯にも、上記のように削らずに対処していく場合と、削って詰めて対処する場合があります。最大の問題は高齢者にとって自分で予防ができない、またはしづらいというケースが多いため、歯科医師はどちらが後々のフォローがしやすいかで判断していきます。
削らない場合(ごく初期の虫歯)の場合、現在学会のガイドラインではフッ化物の塗布(年に2回が標準)が推奨されています。
進行してしまい、保存修復治療が必要なケースではコンポジットレジンを使用します。ただし、この材料を治療する場合は、唾液などの水分を完全に排除して、乾燥状態で使わなければいけません。何らかの理由でそれが困難な場合はグラスアイオノマーセメントを使用します。両者の治療成績には(1年経過後ではありますが)、優劣は付けられないとされております。
虫歯が進行し過ぎたとき
写真は虫歯が進行しすぎて、歯の内部の歯髄にまで達している状態です。この場合ですと、多くのケースは歯内療法(根管治療)が必要となります。
さらに状況によっては写真のように、歯の根だけが残っている場合もあります。多くは抜歯となります。
虫歯の治療の選択および回数
歯科医師は上記の大まかな分類をもとに治療を選択していきます。個々の虫歯によって同じ分類でも選択が異なることにも注意です。治療を受ける前になぜその選択にしたかを、担当歯科医師に訊いてみるとよいかもしれません。
以下の表は大まかなものですが、参考にされてみてください。
虫歯の進行度と主な対処法、治療法(ただしあくまで大まかなもので、例外はたくさんあります)
分類 | 主な対処法、治療法 |
---|---|
エナメル質の初期う蝕 | 経過観察/予防・フッ化物の塗布/定期健診でのチェック(フッ化物の塗布は年に2回) |
象牙質う蝕 | 保存修復治療・補綴治療 小さな虫歯では1~2回。大きくなると型取り等も含めて数回 |
根面う蝕 | フッ化物の塗布/保存修復治療 |
治療費の目安
保存修復治療の大まかな目安です(健康保険は3割負担を想定 2019年現在)。保険外治療の自由診療は歯科医院ごとに異なりますのでご注意ください。このほかに初診料や検査料など、治療に必要な費用がかかります。
詰め物(インレー)の治療費の目安
内容 | 治療費 | |
---|---|---|
保険 | 保険外 | |
コンポジットレジン充填 | 700~1,000円 | 5,000~30,000円 |
保険のインレー | 700~1,000円 | 5,000~30,000円 |
レジンインレー(CRインレー) | 1,090~1,270円 | 5,000~30,000円 |
グラスアイオノマー | 700~1,000円 | |
セラミックインレー | 3~5万円 | |
ハイブリッドセラミックインレー | 3~5万円 | |
ゴールドインレー | 3~5万円 |
参考)虫歯の色はどうなのでしょう?
同じ虫歯でもさまざまな色を示します。歯科医師はその色を診て、ある程度進行するタイプの虫歯かそうでないか判断の参考にすることがあります。長い経過をたどった虫歯の部分は濃い茶色や黒色を呈しますし、急に進行した虫歯ですと、黄色や薄い茶色を示します。
ただし色だけでは判断しません。どちらかというと、虫歯の部分の硬さで判断していきます。先が尖ってない器具で歯の表面を壊さないよう慎重に虫歯部分の硬さを探っていきます。一般的に硬い表面は細菌も少なく、それ以上は削るべきでない部分と判断され、柔らかい部分では細菌が多数存在して、人工物を詰める際には柔らかい部分を治療器具などで除去していきます。
参考文献
- 1) う蝕治療のガイドライン第2版
- 永末書店 特定非営利活動法人 日本歯科保存学会編 2016.4.25
- 1) Dental Caries The disease and its Clinical Management 3rd edition
- Fejorskov et al 編 Wiley Blackwell 2015.5.26
公開日:2019年4月16日
この記事の執筆者
相良 俊男先生
歯科医師
理事長
日本口腔インプラント学会 専門医
日本歯科人間ドック学会 指導医、認定医
日本歯周病学会 会員
日本補綴歯科学会 会員