根の治療(根管治療)の成功率はどのくらいですか?
歯内療法専門医(根管治療以外は行わない歯科医師)が行う現在の根の治療(根管治療)は、外科治療も含めると90%以上の高い成功率を誇っています。ただし、治療を繰り返したり、段々と状態が悪くなるに従って成功率は悪くなる傾向にあります。本稿ではそれらについて解説し、日本の根管治療の問題点についても述べていこうと思います。
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根の治療(根管治療)とは?その成功とは?
「歯がズキズキ痛む」、「歯の横の肉が腫れてきた」これらの症状を訴えて、歯科医院に罹られた経験をお持ちの方は、多いのではないでしょうか?その際に「神経まで達する深い虫歯が原因ですね」、「根の先に膿が溜まっているのが原因ですね」などと、説明され治療を受けたのではないでしょうか?こんな時の治療が根管治療、通称「根の治療」です。
でも、この治療のゴール(成功)についてはいろいろ考えることがあります。それは、なんでしょうか?そんな時に考えることが「生存率」と「成功率」です。
生存率とは?
生存率とは、根の治療(根管治療)後に、「問題の有無(痛みなどの有無、噛むなどの機能が出来るかどうか)に関わらず、口の中に歯が存在している」という状態の確率です。この生存率に関しては、Salehrabi & Rotstein (1)が1,462,936本の歯を調べた大規模調査で、8年後の生存率は、97.43%であったと報告しています。「生存率=成功率」と考えると、根の治療(根管治療)の成功率は約97%といってもいいかもしれません。
成功率とは?
成功率とは、根の治療(根管治療)後に、「治療前に存在しなかった根の先の病気を発生させない」、「治療前に存在した根の先の病気が小さくなった、または消えた」、「歯の根と歯の周りとの境界線の幅や形が正常」、「治療前に感じていた痛みが気にならなくなった、または無くなった」、「問題なく噛めている」などという状態の確率です。つまりさきほどの生存率よりもだいぶ厳しくなりますので、専門家・研究者は「生存率=成功率」とは考えません。また、何を基準とするかで数字は異なってきます。
したがって、診療室の現場では、症状(痛みや違和感などの有無や強さ)や歯の機能状況(問題なく噛めているかどうか)から総合して判断するようになっています。
歯内療法専門医の成功率は?
以上のことを考慮し何本かの論文 (2-4) をまとめると、成功率は以下の通りになります。
- 根管治療 (治療前に根の先の病気(根尖性歯周炎)無し):90%以上
- 根管治療 (治療前に根の先の病気(根尖性歯周炎)有り):約80%
- 再根管治療 (以前に根管治療が行われた歯の2回目以降の治療):約70%
- 再根管治療 (以前に根管治療が行われた歯の2回目以降の治療で、治療前に根の先の病気(根尖性歯周炎)有り、または・および、もともと歯が持っている根の中の管の形が以前の治療で変えられている(根尖破壊有り)):約50%
- 外科的歯内療法 (マイクロスコープ・生体適合材料を用いた歯根端切除術・意図的再植術):約95%
ただし、この成功率は、適切な教育・トレーニングを受け、厳格な無菌的環境・コンセプトの下で、歯内療法専門医が治療を行なった場合の結果となっております。
(「日本の保険の根の治療(根管治療)の成功率は?」参照。)
先ほどの図では最も状態が悪い場合で、治療をした患者さんの約半分が失敗してしまうのですが、それを救うために外科的歯内療法という次の段階の治療を行います。
日本の保険診療における根の治療(根管治療)の成功率は?
これについて調べた論文はほとんどないのが現状ですが、東京医科歯科大学の須田教授の論文 (5) が一番参考になると思います。この論文では、2005年9月から2006年12月に東京医科歯科大学むし歯外来を受診した患者さんのX線写真を撮影したところ、歯の種類のより違いがあったものの、根管治療を施した歯の50-70%に根の先の病気が存在したと報告されています。単純に比較することはできないと思いますが、日本の保険の根の治療(根管治療)の成功率は50%以下である、と解釈してもオーバーではないかと思います。
この低い成功率の原因は、他のテーマの内容とかぶりますが、「ラバーダムを使用するか否か」、「虫歯で神経をとらなければならないか?」、「歯の神経の取り方」、「根の治療(根管治療)に使う薬剤」、「歯の神経を取った後に何を詰めるのか」に対する考え方、「諸外国(欧米・アジアなど)よりも圧倒的に安い根の治療(根管治療)の治療費」など多岐に渡ると考えられます。しかし日本の国民皆保険制度は、世界に誇る素晴らしいシステムで、このシステムにより、応急処置、ブリッジから入れ歯まで、比較的低額で受けられ、国民の健康維持に寄与していることは、間違いない事実です。ただ、このシステムに足を引っ張られ、歯科先進国の歯科医師達から冷笑されている話も聞きます。
参考文献
- Endodontic treatment outcomes in a large patient population in the USA: an epidemiological study.
- Salehrabi R, Rotstein I.
Journal of Endodontics 2004;30(12):846-850
- Influence of infection at the time of root filling on the outcome of endodontic treatment of teeth with apical periodontitis.
- Sjögren U, Figdor D, Persson S, Sundqvist G.
International Endodontic Journal 1997;30(5):297-306
- Outcome of primary root canal treatment: systematic review of the literature-Part 1. Effects of study characteristics on probability of success.
- Ng YL, Mann V, Rahbaran S, Lewsey J, Gulabivala K.
International Endodontic Journal 2007;40(12):921-939.
- Outcome of endodontic surgery: a meta-analysis of the literature-part 1: comparison of traditional root-end surgery and endodontic microsurgery.
- Setzer FC, Shah SB, Kohli MR, Karabucak B, Kim S.
Journal of Endodontics 2010;36(11):1757-1765.
- わが国における歯内療法の現状と課題
- 須田英明
日本歯内療法学会雑誌 2011;32(1):1-10.
公開日:2017年11月28日
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この記事の執筆者
森 隆充先生
歯科医師
American Association of Endodontists
日本歯内療法学会
日本口腔顔面痛学会
執筆者からのコメント
根の治療(根管治療)は、回数を経るごとに成功率が下がり、歯が割れるリスクが高くなることも報告されています。また、長期間にわたる治療により異なる問題が現れ、問題が複雑化することも多くあります。したがってなるべく早い段階で適切な治療をうけるために、歯科医師選びは非常に大切で、時として主治医から歯内療法専門医の協力を仰ぐことも必要になるでしょう。