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歯の神経を抜いた後の長引く痛み、「神経障害性疼痛」とはなんですか?

根管治療で歯の問題がなくなったのに治らない痛みは「神経障害性疼痛」かもしれません。

「歯の神経(歯髄)を抜くこと=根の先端(根尖部)で神経を切断すること」ですから、適切に根管治療を行えば神経の切断部は自然に治癒し、歯の痛みは消失するはずです。

ところが神経の切断部が正常に治癒せず、痛みの信号が切断部から脳に送り続けられることがあります。このような痛みを「神経障害性疼痛」といい、根管治療後に長引く痛みの一例とされています。

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歯の神経(歯髄)を抜けば、歯の痛みは治まるのか?

虫歯が進行すると歯の神経(歯髄)が炎症を起こし、歯髄炎が生じて歯が痛みますが、悪化すると歯髄を抜かない限り痛みは治まりません。歯髄を抜くことを抜髄といいます。

抜髄後、歯髄が入っていた空洞(根管腔)をキレイに掃除して詰め物をすると(根管充填)、痛みを感じる歯髄は既に存在しないため、痛みは消失します。このように根管腔をきれいにして根管充填するまでの一連の治療を根管治療といい、適切な根管治療をしてもらうことが重要です。

根管治療後、何日くらいで痛みが改善するかを調べた報告があります (1)。根管治療前、治療24時間後、1週間後を比較してみると、治療前の痛みは24時間後に改善し、1週間後には最小化しました。

抜髄後に生じる神経障害性疼痛

根尖部で歯髄を切断すれば歯の内部にある歯髄はなくなりますが、歯の周りの組織(歯根膜・歯肉・顎骨など)にはまだ神経が残っています。歯髄を含めた、これら組織の痛みは「三叉神経」がその感覚を受け取っています。身体の他の部分の神経と比較すると、抜髄や抜歯で切断された三叉神経の治りは良いことが知られています。根尖部で切断された歯髄が治っていけば、先に挙げた (1)の報告にある通り、速やかに歯の痛みは消失していきます。

ところが中には切断部が順調に治らず、次のようになる場合があります。

  • 既に切除済みの歯髄があたかも存在するかのように痛みが脳に伝わってしまう場合
  • 神経が損傷されることで痛みを伝える神経と温度や圧覚など他の感覚を伝える神経が混線し、間違って痛みが伝わってしまう場合
  • 痛みを伝える物質が出過ぎたり、痛みを受け取る部分が過敏になったりする場合

このような痛みは一過性の鋭い痛み、あるいは持続性の鈍い痛みです。神経損傷後に時おり生じるこのような痛みを「神経障害性疼痛」といいます。抜髄した歯の周囲に存在する神経組織で生じる痛みを抑える体の働きが人間には備わっています。脳やその近くでこの働きが正常に行われなくなると、脳自体が痛みに敏感になったりします。

神経障害性疼痛とはどのような痛みですか?

口の中に現れる典型的な神経障害性疼痛は、下歯槽神経損傷と舌神経損傷の際に生じる痛みです。これらの麻痺は骨折や腫瘍摘出手術、親知らずの抜歯などにより生じることがあります (2)。神経が傷ついたり、切断されたりすると痺れとともに痛みが生じますが、その特徴は「時おり訪れる、鋭く電気が走るような痛み」あるいは「ずっと続くヒリヒリ焼けるような痛み」です (3)。

神経障害性疼痛の特徴

  • 時おり訪れる、鋭く電気が走るような痛み
  • ずっと続くヒリヒリ焼けるような痛み

抜髄後に神経障害性疼痛が生じる確率は?

根管治療後に痛みが持続した患者271名を分析した結果、16名(5.9%)が神経障害性疼痛であったという報告があります (4)。しかしながら、この271名という人数は根管治療を受けた患者数ではなく、根管治療後に痛みが持続した患者数なのです。したがって、抜髄後もしくは根管治療後にどの程度の確率で神経障害性疼痛が発症するのかについてはいまのところ不明です。

根管治療を受けた1257本の歯を追跡調査してみると、3~5年間痛みが持続した歯が63本(5%)あったという報告もあります。63本中、幾つが神経障害性疼痛であったかは調べられていませんが、根管治療を受けた歯が100本あれば、そのうち数本は神経障害性疼痛が生じていると推測されます (5)。

神経障害性疼痛はどのように治療するのか?

神経障害性疼痛に対しては再度根管治療を行うのではなく、薬を内服する治療が主体となります。歯の痛みに限らず、口腔顔面に生じる身体障害性疼痛に対してよく用いられているのが、三環系抗うつ薬や抗てんかん薬です (6)。

抗うつ薬と聞いて「えっ」と思われるでしょうが、これらの薬はうつ病やけいれんを治すために用いるのではなく、あくまで神経障害性疼痛に効く薬として用いられています。「末梢から中枢に痛み刺激が過剰に伝わらないように伝導抑制をする」や「痛みを抑制するための機能を正常化する」などの薬理効果があると考えられています。

先に紹介した (4)では三環系抗うつ薬を毎日服用することにより、16名中11名の痛みが消失したと報告されています。神経障害性疼痛に限ったものではありませんが、原因不明で持続する歯の痛みに対しては、抗てんかん薬は三環系抗うつ薬ほどには効果的ではないとの報告もあります (7)。

三環系抗うつ薬は「必要な量を十分な期間服用すること」が大切です。抜髄後や根管治療後に生じる神経障害性疼痛に対して、必要とされる服用期間については判明していません。また服用終了後に再発することなく、完治する割合についても定かではありませんが、十分な量の薬を半年間継続した後、服用を中止した場合に再発が少ないと経験上は感じています。

執筆者からのコメント

抜髄後や根管治療後に生じる神経障害性疼痛については、現時点で実態が詳しく解明されているわけではありません。下歯槽神経麻痺や舌神経麻痺に伴って生じる神経障害性疼痛については、知覚麻痺が下口唇の皮膚や舌の粘膜にあらわれるため、見つけやすいのです。一方、根管治療を受けた歯の神経は顎骨の中を通っているため、知覚麻痺の症状がわかりにくいといえます。

上記の理由から、神経障害性疼痛であるにもかかわらず根管治療が延々と行われたり、根管充填が済んで根管治療が終了したにもかかわらず、何度もやり直したりするケースも珍しくありません。しかし、神経障害性疼痛が生じた歯に対して再度の根管治療を行うと痛みを悪化させやすいといわれています。

神経障害性疼痛は速やかに薬物療法を開始すると改善する確率が高いとされているため、抜髄後に痛みが続く場合はまず神経障害性疼痛の発症を疑ってみる必要があります。また、根管治療後に痛みが続く場合の再治療については慎重な判断が不可欠です。

根管治療後、長引く歯の痛みが神経障害性疼痛であるかどうかは歯科の診断に委ねる必要があります。その結果、神経障害性疼痛であれば薬物療法を主体とした治療を行うことになりますが、一般の歯科医院では薬を出してもらえない可能性があります。また、神経障害性疼痛の診断そのものをしてもらえない可能性もあります。そのような場合は担当医と相談の上、神経障害性疼痛の診断や治療ができる医療機関を紹介してもらいましょう。

参考文献

公開日:2018年2月6日

この記事の執筆者

樋口 均也

樋口 均也先生

歯科医師
医療法人慶生会 ひぐち歯科クリニック 理事長
博士(歯学)
日本口臭学会 口臭専門医

医療法人慶生会 ひぐち歯科クリニック

大阪府茨木市別院町3-34サンワビル2F

TEL: 072-646-8445

この記事の監修者

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