ラバーダムやマイクロスコープは、根管治療の成功率に影響しますか?
ラバーダムの装着が根管治療の成功率に影響を与える可能性を示したいくつかの論文があります。一方、マイクロスコープを使用することは、外科的歯内療法での成功率に影響を与える有意な差がある、という報告がされています。
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ラバーダムの装着が根管治療の成功率に影響を与える可能性を示したいくつかの論文があります。(1)
また、米国歯内療法学会(AAE)では、そのガイドラインにおいて「Tooth isolation using the dental dam is the standard of care; it is integral and essential for any nonsurgical endodontic treatment.(デンタルダム(ラバーダム)を用いた治療歯の隔離は非外科的根管治療のスタンダードオブケアである)(AAE)」と明記されています。
一方、マイクロスコープを使用することは、外科的歯内療法での成功率に影響を与える有意な差がある、という報告がされています。(2)
ラバーダムとはどのようなものでしょうか?
ラバーダムとは、ゴムのシートを用いて治療する歯のみを露出させ唾液を歯の中に触れさせないようにしたり、洗浄の薬液を口の中に触れさせないようにする無菌的環境のベースとなるものです。
以下のような様々なメリットがあります。
- 治療する歯へ唾液を触れさせない(唾液の中には細菌が存在します。)
- 洗浄の薬液を口腔粘膜に触れさせない
- 舌や頬粘膜を避け視野を明示し、呼気によるミラーの曇りを防ぐ
- 治療器具の誤飲等医療事故を防ぐ
マイクロスコープとはどのようなものでしょうか?
マイクロスコープは20倍程度の拡大視野と同軸照明により、肉眼では見えなかった細かい部分まで見ることのできる医療機器です。
特に根管治療では明るい照明下で拡大して見ることにより過去の治療では見逃されてしまっていた根管を見つけたり、余計に削り過ぎるのを防いだり現代歯内療法では欠かすことのできない医療器具となります。
治療の成功率はどれくらいなのでしょうか?
いくつかの成功の基準があり、根管治療の成功率について様々な報告があるのであくまでも報告の平均的な数値になりますが米国での歯内療法専門医での治療成功率は
- 初回の治療(根の先に炎症を認めないもの):90%以上
- 初回の治療(根の先に炎症を認めるもの):約80%
- 再治療:70~80%
- 再治療(元の根管形態に破壊を認めるもの):約50%
となっています。米国歯内療法専門医ですから、ラバーダム装着率は100%に近いものと推測されます。
一方日本では根管治療の成功率についての報告はほとんどありません。純粋に成功率とは言えませんが、根管処置歯における根尖部X線透過像の発現率として、50~60%程度根の先に透過像(炎症の存在)が確認されたとの報告があります。(3)
また、同報告内において、日本歯内療法学会会員中で必ずラバーダムを装着するするという会員の比率は25.4%、一般歯科医師中の必ずラバーダム装着をするという人数の比率は5.4%と報告されております。
通常の根管治療で治癒しない難治性の根尖性歯周炎に対する外科的歯内療法では従来の外科的歯内療法の成功率(40~60%)と高い水準ではありませんでした。
現在、マイクロスコープを使用したマイクロサージェリーと呼ばれる新しい術式は従来より有意に高い成功率(90%以上)を報告しています。(4)
これはマイクロスコープとマイクロサージェリーに対応した専用のインスツルメントを使用することにより肉眼では確認できなかった治癒を妨げる解剖学的形態(イスムスやフィン、側枝や分岐、微小な破折等)や通常の根管治療の限界(拡大形成や根管充填の限界)を確認することができ、これらの問題解決を行うことができるようになったからと言われています。
参考文献
- (1)The Effect of Rubber Dam Usage on the Survival Rate of Teeth Receiving Initial Root Canal Treatment: A Nationwide Population-based Study.
- Po-Yen Lin, DDS, MS, MPH, Shih-Hao Huang, DDS, MS, PhD, Hong-Ji Chang, DDS, and Lin-Yang Chi, DDS, MS, PhD
JOE - Volume 40, Number 11, November 2014
- Rubber Dam Use during Post Placement Influences the Success of Root Canal–treated Teeth.
- Joshua Goldfein, DMD, Chad Speirs, DMD, Matthew Finkelman, PhD, and Robert Amato, DMD
JOE - Volume 39, Number 12, December 2013
- Association of Failed Root Canal Treatment with Dentist and Institutional Volumes: A Population-based Cohort Study in Taiwan.
- Chiachi Bonnie Lee, Ya-Hui Chang, Pei-Chun Wen, Chung-Yi Li
Journal of Endodontics, Vol. 43, Issue 10, p1628–1634
- Retreatment or radiographic rnonitoring in endodontics.
- Van Nieuwenhuysen JP,Aouar M,D'Hoore W
Int Endod ,27:75-81,1994.
- (2)Outcome of Endodontic Surgery: A Meta-analysis of the Literature—Part 1: Comparison of Traditional Root-end Surgery and Endodontic Microsurgery
- Frank C. Setzer, DMD, PhD, MS, Sweta B. Shah, BDS, DMD, Meetu R. Kohli, BDS, DMD, Bekir Karabucak, DMD, MS, and Syngcuk Kim, DDS, PhD
Journal of Endodontics Volume 36, Number 11, November 2010
- (3)わが国における歯内療法の現状と課題
- 須田英明
日歯内療誌 32(1):1-10 2011
- (4)Microsurgery in Endodontics
- Syngcuk Kim,Samuel Kratchman
217-218 2018
公開日:2017年12月6日
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この記事の執筆者
高橋 宏征先生
歯科医師
日本歯内療法学会 会員
American Association of Endodontists 会員
この記事の監修者
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石井 宏先生
歯科医師 / ペンシルバニア大学 非常勤講師 / 神奈川歯科大学 非常勤講師
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