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インプラント治療は誰でも受けられますか?

リスクとなる要因がある場合、インプラント治療を受けられない場合があります

全身および口の中の状態などによって治療の成功に対しリスクとなる要因がある場合、インプラント治療を受けられない場合があります。

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実は、成長期の若者はインプラント治療を受けることが出来ません。また、健康状態が悪い場合などもインプラント治療を受けられない場合があります。そして、お薬で健康状態をコントロールできていても、特定のお薬を使用している場合にはインプラント治療を受けられない場合があります。

インプラント治療を安全に受け、埋入されたインプラントが長期間良好に機能するためには、術前に患者さんの全身および口の中の状態を正確に把握し、評価することが必要不可欠になります。なぜなら、治療の成功に対しリスクとなる要因がある患者さんに対しては、インプラント治療を行うにあたって慎重に適応を選択する必要があり、状況によっては治療が出来ないこともあるからです。

したがって、患者の総合評価として全身状態の検査と口の中の状態の検査等を行い、リスクファクターを見つけることになります。リスクファクターは以下の3項目に分けることがあります。外科的手術に対するリスクファクター、オッセオインテグレーションの獲得(インプラント体と骨の結合)と維持に対するリスクファクター、上部構造製作(インプラントの被せ物)と維持に対するリスクファクターです。 (1)

3つのリスクファクター
  • 外科的手術に対するリスクファクター
  • オッセオインテグレーションの獲得(インプラント体と骨の結合)と維持に対するリスクファクター
  • 上部構造製作(インプラントの被せ物)と維持に対するリスクファクター

インプラント治療に対するリスクファクター

手術に対する
リスクファクター
オッセオインテグレーション
の獲得と維持に対する
リスクファクター
上部構造製作
と維持に対する
リスクファクター
全身的な状態 高血圧、心疾患、糖尿病
肝硬変、腎不全
喘息、慢性閉塞性肺疾患
血液疾患、出血性素因
精神疾患
糖尿病、肝硬変、腎不全
骨粗鬆症、膠原病、精神疾患
ビスフォスフォネート系薬剤、ステロイド薬,免疫抑制剤などの服用
精神疾患
顎領域の運動麻痺・痙攣
口等の状態 不良な骨質
骨量不足
喫煙
埋入部位への放射線治療
不良な口腔衛生状態
口腔乾燥、喫煙
被せ物とンプラント長比率
角化粘膜の不足
咬み合わせの問題
粘膜が薄い
高い審美性(見た目)の要求
歯茎が見える方
顎関節症

患者の年齢

インプラント埋入後に顎骨が発育すると、天然歯とインプラントの間にずれを生じる可能性があります。ですから、必ず成長が止まったことを確認した上で慎重にインプラント治療を検討する必要があります。成長が終了する時期は個人差が大きいですが、埋入可能な年齢の基準葉Scammonの成長発育曲線 (2) を参考にするとおよそ20歳頃と考えられます。

一般的には、高齢になるに従って何か病気を持つ頻度は高くなります。これはリスクになりますが、病気のコントロールがされていればインプラント治療を受けることが出来ることが多いと思います。しかし、御自身で健康に問題ないと考えていても、健康診断を受けてない場合は術前の血液検査等で問題(病気)が見つかることもありますので、しっかりと全身的な術前検査を受けることをオススメ致します。なぜならば、鶴見大学口腔顎顔面インプラント科において術前の血液検査結果異常により癌や糖尿病などの病気が見つかることがあったからです。

特に気を付けられている全身疾患

骨粗鬆症

骨粗鬆症は、手術時の全身的なリスクとは無関係であるが、インプラント治療の成功を妨げる全身的リスクファクターとして問題となる疾患です。埋入したインプラント体が骨と完全に固定されるために重要な十分な初期固定は、主として埋入部位の骨質と骨量によって決定されますが、骨粗鬆症による骨密度や骨質の劣化があれば初期固定失敗の大きなリスクファクターとなります。

どの程度の骨粗鬆症であるとインプラント体支持に影響を及ぼすのかは分かっていませんが、ビスフォスフォネート系のある種のお薬を使用している場合はインプラント治療が出来ない場合があります

それは、ビスフォスフォネート系薬剤関連顎骨壊死(Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaws : BRONJ)が起きる可能性が考えられているからです。特に乳がんなどの悪性腫瘍の治療のためにビスフォスフォネート系薬剤が注射で投与されている患者さんやステロイドを併用している場合はかなりの確率でBRONJ を惹起する可能性が高いため、インプラント治療は原則として禁忌になりますが、内服の場合にはリスクは少ないとも考えられています (3)。

また、2003年にはじめてBRONJが報告 (4)されて以来、日本でもインプラント治療を契機として発症したBRONJの報告もあります (5~7)。

糖尿病

糖尿病は、インプラント手術時におけるリスクとインプラント治療の成功を妨げるリスクの両方で問題となります。十分にコントロールされている糖尿病でも長い病悩期間を有する患者さんでは、他臓器障害が潜んでいる可能性もありますので全身状態の確認が必要になります。

また、手術中に起こる低血糖の問題ではショックが起きる可能性があり、諸術後に起こる高血糖は組織、細胞を低酸素状態に陥らせ、好中球の機能を低下させ、その結果創傷治癒不全の原因となりますので、術後の傷の治りが悪いことやインプラント周囲炎発生のリスクも高くなる問題があります (8)。

ですから、インプラント手術を行う場合には糖尿病のコントロールは通常の基準である空腹時血糖:140 mg/dL以下やHbA1c:6.9%(NGSP値)未満を適用することが多く、糖尿病の方は主治医とよく相談して下さい

金属アレルギー

インプラント体は純チタンが多く、チタンはイオン化しにくく生体親和性の高い金属であるため、金属アレルギーは起きない材料であると従来は考えられていました。しかし、整形外科領域では1990年代からチタンアレルギーが疑われる症例の報告があり、近年では歯科インプラント治療においてもアレルギーと考えられる報告がみられるようになりました (9~11)。チタンでアレルギーを起こすとインプラント周囲に慢性炎症反応を惹起し、周囲粘膜の発赤、水疱形成、びらん、扁平苔癬などが発現することがあります。

ですから、金属アレルギーを疑ったら、インプラント埋入手術前にパッチテストやリンパ球刺激試験をして金属アレルギーの有無を確認することが必要です。しかし、口腔内にいくつかの金属の被せ物や詰め物があって金属アレルギーは問題ないと思われても、インプラント治療後にアレルギーを発症することもあります。また、1,500名のインプラント患者に対しチタンアレルギーの有無を検索したところ、なんと8名(0.6%)が陽性であったと報告されています (12)。したがって、可能であればインプラント術前検査としてのチタンアレルギー検査 (13)を考えることも必要かもしれません。

顎骨に放射線治療を受けている

癌などの治療のために放射線治療を行っている人は、インプラント治療に限らず外科的な処置は慎重に行わなければならないと考えられています。それは、放射線治療をしている人は口の中に炎症が起こりやすく、骨髄炎を起こすこともあるからです。また、放射線治療の影響で唾液の量が少なくなり、唾液による緩衝作用や抗菌作用が落ち、虫歯や歯周病になりやすく、治りにくいとも言われており、インプラント周囲炎も起きやすい環境になります (14)。

局所の評価

局所状態がインプラント治療を行うのに適しているか、またインプラント治療が患者さんにとって最適な治療であるか否かを判断するために、以下のような診察と検査等が行われます。

欠損部の検査 口腔内の検査 顎関節・咬合検査 審美的検査
  • 欠損部の顎骨の幅と形態
  • 欠損部と咬み合わせのスペース
  • 神経の位置や顎骨・上顎洞内異常の有無 など
  • 残存歯数と欠損歯数
  • 虫歯の有無
  • 被せ物や義歯の状況
  • 口腔衛生(歯周疾患)状態
  • 骨隆起や小帯の付着部位 など
  • 咬み合わせについて
  • 残存歯の咬耗(摩耗)
  • 最大開口量
  • 顎関節症
  • TCH(歯列接触癖) など
  • 歯茎の位置
  • 歯肉の形態と厚み
  • スマイルライン
  • 残存歯の歯冠の形態と色
  • 欠損部粘膜の厚みと色 など

欠損部と残存歯列の状態

歯が欠損した部位の状態、残存歯状態(虫歯、被せ物、入れ歯など)、咬合関係(咬み合わせの問題、顎関節症の有無など)、口腔衛生状態(歯周病など)を評価し、状態を把握することはインプラント治療における術前検査として重要です。

歯周病の評価

インプラント治療対象歯の喪失原因が歯周病であった場合は、歯周病の評価を口腔の清掃状態を評価するプラーク指数(PI)、歯周の炎症を評価するプロービングポケットデプス(PPD)、プロービング時の出血(BOP)、歯の動揺度などで行う必要があります。

評価後、必要に応じて歯周基本治療から行い、口腔衛生状態が改善しない患者はインプラント治療後にインプラント周囲炎の発症リスクが高いと考えられます (15)。したがって、歯周病の改善が認められない場合には、インプラント治療を行わないこともあります。

顎関節・咬合の評価

歯列の咬合関係として上下歯列の被蓋と対合、咬合接触、TCH(歯列接触癖)、開口量、開閉口運動に異常がないかなどを評価します。特に開口量が小さいと、奥歯のインプラント治療はドリルを装着したハンドピースの操作ができない場合があり、この場合はインプラント体の埋入が困難で、出来ないこともあります。

また、力のコントロールとして、TCHがある場合は痛みの原因だけでなく、インプラント治療における補綴のトラブル(破折、スクリューの緩み・破折)、インプラントの脱落などの原因にもなります (16)(17)。したがって、これらのリスクを軽減するためにもTCHの是正指導を受けることが好ましく、TCHのコントロールが出来ていない場合はインプラント治療の長期予後が悪い可能性があり、インプラント治療に向いていないかもしれません

インプラント体埋入部顎骨の評価

骨量、骨質の診断にはパノラマエックス線写真や3次元に分析できるCTが主に用いられています (18)。インプラント体埋入部の骨量は、歯槽骨の高径で10mm以上、幅径6mm以上であれば問題なく埋入できると考えられます。しかし、歯槽骨の高径と幅径のどちらか1方あるいは両方無ければ、インプラント体が骨の中に埋入出来ないので、インプラント治療は直接出来ません

ただし、骨が無くインプラント体が直接骨に埋入出来ない局所状態の場合でも、骨移植などを併用することで対応出来る場合もありますので、担当医に良くご相談(条件)してみて下さい。必要に応じて骨移植の治療が出来るインプラント専門医を探す必要があるかもしれないです。

また、埋入計画に際してはもう1つ重要なのが、下顎の場合にはインプラント体の先端と下顎管との間にはドリルによる下顎管損傷を避けるため十分な安全域(距離)を設ける必要があります。

その他

患者さんの全身状態の評価において、手術実施に十分耐えられる健康状態であること、術後の治癒、インプラント補綴装置を長期にわたって維持できると判断された場合は全身的適応症の条件は満たしています。

局所の状態では顎骨への放射線照射、ビスフォスフォネート系薬剤の投与を受けていて骨質がきわめて不良な場合、その他、骨量や軟組織量に大きな問題がある場合は禁忌症であるが、条件の改善が可能であれば、インプラント治療は適応できることもあります。

加えて、患者の精神的状態が悪い、治療に対する理解が乏しい、協力的態度がない、治療を希望しながら非協力的な場合には、円滑な治療の実施は困難になってしまいます (19)。したがって、全身的および局所的条件を満たしていても治療の実施に際して協力的でない場合はインプラント治療が出来ない場合があります。

参考文献

公開日:2018年3月3日

この記事の執筆者

加藤 道夫先生

歯科医師

加藤デンタルクリニック

神奈川県横浜市中区元町4-166元町ユニオン

TEL: 045-681-8217

この記事の監修者

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