保険と自費(保険外)のかぶせ物(クラウン)は、なにが違うのか?
虫歯などで歯を削った場合、何らかの材料で削った部分を補う必要があります。歯科では保険診療と自費診療(保険外)で使える材料が異なり、一般的に自費のかぶせ物の方が見た目や耐久性といった面で優れていることが多いですが、治療費は保険の十倍以上になることが珍しくありません。
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かぶせ物とは
かぶせ物とは、歯がすっぽりと隠れるように覆いつくすものを言います。被せる、というところから、「冠(かん)」「クラウン」とも呼びます。自由診療の場合、歯の種類による制限はありません。その歯にとって、ベストな材料を選択することが可能となります。
保険診療の場合には、歯の種類によって、使用できる材料が決まっています。金属(12%金銀パラジウム合金)のかぶせ物と、一部の歯には、歯科用プラスチック(レジン)のかぶせ物が、使用できます。
人間の歯は、親知らずを除いて28本あります。内訳は、前歯が12本、小臼歯が8本、大臼歯が8本、となっています。保険診療では、この歯の種類によって、材料が決まっています。
大臼歯は、いわゆる銀歯です。12%金銀パラジウム合金という金属でできたかぶせ物です。例外として、下顎の第一大臼歯は歯科用プラスチックのかぶせ物が使用できます。これは、CAD/CAM冠と呼ばれるもので、従来のオールハンドメイドで作るやり方ではなく、コンピューターによってかぶせ物の形を設計から作成までを行い、細かい修正を人間の手で行う方法で作られたかぶせ物のことを言います。
前歯は、レジン前装冠といって、12%金銀パラジウム合金のかぶせ物の表面を、白いプラスチックで覆い、見た目に配慮したものになります。小臼歯は、銀歯とCAD/CAM冠、レジンジャケット冠が使用できます。
保険の場合
- 前歯(犬歯まで) : レジン前装冠、レジンジャケット冠
- 小臼歯 : 銀歯、レジンジャケット冠、CAD/CAM冠
- 大臼歯 : 銀歯、CAD/CAM冠(※第一大臼歯のみ、条件あり)
※上下左右の第二大臼歯が全て残っていて、過度な噛み合わせの力がかからない場合
保険外(自費)の場合
保険の材料の他に、以下のような材料を使うことが可能となります。
- セラミック(陶器)
- ゴールド(金、金合金)
- ハイブリッドレジン(強化プラスチック)
各材料の大まかな違い
耐久性 | 審美性 | アレルギー | 欠ける | ||
---|---|---|---|---|---|
自費診療 | セラミック | ◎ | ◎ | ◎ | 〇 |
金合金 | ◎ | × | △ | ◎ | |
ハイブリッドレジン | △ | 〇 | 〇 | △ | |
保険診療 | 12%金銀パラジウム合金 | △ | × | × | ◎ |
レジン | × | 〇 | 〇 | × |
かぶせ物の耐久性
かぶせ物をした後は、その結果が長期的にもたなければ、再治療でまた削る、となり、歯はだんだんなくなっていきます。当たり前の話ですが、かぶせ物は、歯自体を復活させているわけではありません。将来、自分の歯を残すには、再治療を防ぐ以外に手段はないのです。
ここで言う耐久性の差は、各材料の、
- 歯にかぶせ物をつける際に使用するセメントの性能の差
- 歯科医院や歯科技工所で、製作に使用される材料、方法の差
- 歯科医院や歯科技工所で、製作にかけることができる時間の差、それによって生まれる精度の差
が主に関与します。
材料、方法の差は、歯科医師や歯科技工士の努力とは別の話であり、努力で越えられる壁ではありません。かけられる時間が限られると、精度を十分に高めることができない状況も出てきます。
治療の精度を高めるには、自費診療の方が一般的には有利であると考えられます。また、虫歯の原因菌の付きやすさは、セラミックの表面が最も付きにくく、次いで、天然の歯、メタル、レジンの順に付きやすくなっていきます。
かぶせ物をしている歯が再治療になった場合、詰め物をしている歯を比較して、すでに歯質はすでに大きく失われているため、そこから再治療になると、抜歯になることもあります。
保険のかぶせ物の寿命
保険のかぶせ物(レジン前装冠)の寿命
保険のレジン前装冠の寿命を調べた研究は見つけられませんでしたが、レジン前装冠は銀歯の表面にレジンを貼り付けて見た目を良くしているものなので、寿命は保険の銀歯と近い数字になることが予想されます。(前歯で噛み合わせの力がかからない分、銀歯よりも長持ちする可能性がありそうです)
保険のかぶせ物(銀歯)の寿命
保険の銀歯の寿命を調べた研究は多くありませんが、1991年1月1日から2005年3月31日の間に札幌市内の歯科医院を受診した総計95人、649本の歯の修復物を対象にした研究では、銀歯の平均生存期間3276日、10年生存率55.8%という結果が出ています 1)。
また、2000年に長崎大学歯学部付属病院で行われた総計93人、銀歯726本を対象とした研究では、10年生存率が約84.7%という結果が出ています 2)。
上記2つの研究では結果が大きく異なりますが、これは研究デザインの違い(症例選択、再治療の判断基準、一般開業医と教育機関の差など)が大きく影響していると思われます。
- 銀歯の平均生存期間 : 3276日
- 銀歯の10年生存率 : 55.8~84.7%
保険のかぶせ物(CAD/CAM冠)の寿命
CAD/CAM冠は2014年に保険導入され、主に小臼歯に対して多く使用されています。CAD/CAM冠の使用割合は、導入年度である2014年は小臼歯の被せもの全体の4%程度でしたが、翌年2015年度には全体の約15%にまで増加するなど、今後使用される機会がさらに増えるであろうと考えられています。
保険のCAD/CAM冠の長期予後に関する研究はまだありませんが、2014~2016年にかけて東北大学で361本のCAD/CAM冠を対象に行われた研究では、約2年間の間に7.5%のCAD/CAM冠にトラブルが生じた(全て脱離)という結果が出ています。この数字は他の被せものと比べてかなり高い数字のため、その原因を究明し、改善していくことが、今後求められています 3)。
自費(保険外)のかぶせ物の寿命
オールセラミッククラウンの寿命
セラミッククラウンの寿命を調べた研究(一定の基準を満たした34の研究から総合的に判断)では、オールセラミッククラウンの5年生存率は 約84~96% という結果が出ています 4)。
オールセラミックは強い力がかかると割れてしまうため、噛み合わせの力が強い奥歯では寿命が短くなりやすい傾向があり、その場合は耐久性の高い金属の被せものを選択した方が良い場合もあります。
ゴールドクラウンの寿命
ゴールドは耐久性に優れた材料として知られており、2004年に1314の金修復物について調べた研究では、ゴールドクラウンの9年生存率は約90%、20年で約72%という結果が出ています 5)。
見た目が金属であるというデメリットはありますが、長持ちを第一に考えた場合には、ゴールドクラウンは重要な選択肢の一つとなります。
審美性
見た目の問題であり、本質的に歯の寿命に関わる部分ではありません。
しかし、この問題は、気にする患者さんにとっては「以前と同じように笑えるかどうか、人と対面できるかどうか」に関わる部分になります。よって審美性は、人とコミュニケーションを取る頻度が高ければ高いほど、重要な点となるでしょう。
アレルギー
保険診療で認められている金属は、12%金銀パラジウム合金というものですが、他に、銅、インジウム、イリジウム、亜鉛、などを、比較的アレルギーの原因(アレルゲン)となりやすい金属が含まれています。
レジン、ハイブリッドレジンに関しては、アレルギーの報告はまれであり、セラミックに関しては、以前よりアレルギーの心配が殆ど無いと考えられており、歯科以外では整形外科などで人工関節として体内に埋め込む治療に使われています
治療費
そのため、以下に記載する価格は、おおよその参考程度に見てください。費用の高低が倍近くあることもあります。ハイブリッドクラウンであれば、6万円前後、セラミッククラウンであれば、8~14万円、ゴールドクラウンであれば、8万~12万くらいが多いのではないでしょうか。
自由診療の参考価格
- ハイブリッドクラウン:6万円前後
- セラミッククラウン:8~14万円
- ゴールドクラウン:8~12万くらい
以下も、一般論としてみてください。
費用の高低は、かぶせ物の材料の良し悪しだけで決まるものではありません。
- 治療にかける時間を多く取り丁寧に行う(時間的コスト)
- かぶせ物を、歯に着ける際に使うセメントの性能が優れている(かぶせ物以外の材料コスト)
- 歯を削るときに、拡大鏡などを使い、肉眼よりも精度を高めている(道具のコスト)
- DRの教育、勉強に投資をして、提供する医療の質を高めよるべく努力している(教育のコスト)
- クリニックのある場所の土地代(都会の方が田舎より物価が高い)
ほかにも、たくさんの違いがあり、ここには書ききれません。同じセラミッククラウンを8万円で施術しているところも、14万円で施術しているところもありますが、その費用の差は、一般的には上記のような点から生まれることが多いのではないかと思います。
繰り返しますが、あくまで一般論です。
患者さんにより良い質の治療を、より安価で提供しようと努力した結果、14万円のセラミッククラウンと同等の質を、8万円で提供している歯科医院もあるかもしれません。
結局、かぶせ物を選ぶときのポイントはなんなのでしょうか?
今回は、かぶせ物の材料の話に終始しましたが、保険診療と自由診療では、かぶせ物自体の精度、付けるときに使うセメントなど、治療工程の殆どが違います。それに伴って、金額も様々です。
歯科医師は、患者さんに「私の歯には、どの治療が最も適していますか?」と聞かれれば、歯科医学的に「最も適しているもの」を答えることはできます。しかし、そこには患者さんの経済的状況は加味されていません。歯科医学の研究に、患者さんの経済性は馴染まないからです。
ですから、歯科医院に行って、かぶせ物の種類を選ぶ際には、まず治療の選択肢の説明を受け、メリット・デメリットを聞くと良いでしょう。
以上を踏まえ、どの治療が良いかは、何を重視するのか、によって変わるため、担当医とよく相談し決定するのが良いでしょう。
参考文献
- 1) 臼歯部修復物の生存期間に関連する要因
- 青山貴則,相田潤,竹原順次,森田学
口腔衛生会誌 2008;58:16-24.
- 2) 歯科修復物の使用年数に関する疫学調査
- 森田学,石村均,石川昭,小泉和浩,渡邊達夫
口腔衛生学会雑誌 Journal of Dental Health 45,788-793 〔1995)
- 3) CAD/CAM冠の現状と将来展望
- 新谷明一,三浦賞子,小泉寛恭,疋田一洋,峯篤史
日本補綴歯科学会誌 2017;9(1),1-15
- 4) A systematic review of the survival and complication rates of all-ceramic and metal-ceramic reconstructions after an observation period of at least 3 years. Part I: Single crowns.
- Pjetursson BE1, Sailer I, Zwahlen M, Hämmerle CH.
Clin Oral Implants Res. 2007 Jun;18 Suppl 3:73-85.
- 5) Retrospective clinical evaluation of 1,314 cast gold restorations in service from 1 to 52 years.
- Donovan T1, Simonsen RJ, Guertin G, Tucker RV.
J Esthet Restor Dent. 2004;16(3):194-204.
公開日:2018年8月10日