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オールセラミッククラウン(e.maxクラウン)の特徴やメリット・デメリットとは?

丈夫でナチュラルな審美性を獲得出来る被せ物は、セラミッククラウンです。その中でもe.max(IPS e.max Press:通称e.maxクラウンです。二ケイ酸リチウムの組成で他メーカーが後発した製品もあります)は審美性と機械性に優れ、近年注目されています。

さらに価格は上がりますが、ジルコニアクラウンもオールセラミッククラウンで世界中で普及しています。それぞれの特徴と他の材質との比較を記していこうと思います。ご自身の要求と状況に、適した材質と製作方法を選択する事が可能です。

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オールセラミッククラウン症例

前歯部クラウン症例

右上の一番目の前歯が、e.maxで作ったクラウン(かぶせ物:層を重ねて製作するレイヤリングタイプで技工)です。ほぼ均一の厚みのセラミックスで、メタルフリー治療(金属を使用しない方法)が可能です。

歯肉が下がってきたとしても、従来のメタルセラミッククラウン(メタルボンドとも呼ばれます)のように、接合面の金属が見えてしまったり、金属が溶け出してメタルタトゥーになって歯肉変色やマージン変色(縁の歯牙の変色)という事もないので持続性のある審美性を獲得出来ます。歯肉からの立ち上がりもきれいに仕上がりました。

治療前

前歯部セラミッククラウンの写真

治療後

臼歯部クラウン症例

前歯から4番目・後ろから4番目の歯が、e.maxクラウンの被せ物です。周囲の歯の色調とも馴染んでいます。

治療前

臼歯部セラミッククラウンの写真

治療後

耐久性・強度について 1)

e.maxは、二ケイ酸リチウムという種類のセラミックスで、他のセラミックと比較しても天然歯に近い硬度を持つ材質です。強度は400MPaと硬く、これまでのセラミックスにここまで硬い材料はありませんでした。他社のセラミック材料と比較しても、群を抜く曲げ強度です。

(※奥歯が欠損した部分のブリッジでは、耐えられない可能性があるメーカーは、適応としていません。奥歯の欠損や、長い欠損のあるブリッジには、オールセラミックではジルコニアが審美的かつ耐久性も良いですが、高額になることが多いです。)

天然歯(エナメル質)が350MPa、メタルセラミッククラウンのセラミックスが100MPaの硬度です。

審美性について

均一な透明セラミックスなので、エナメル質の透明感が再現できます。基調色だけで20種以上あります。その表面に絵具のような上薬を塗布する事で、ほぼどのような色の歯の色も質感も再現できます

メタルセラミッククラウンとの比較

メタルセラミッククラウンとは、貴金属の内冠の上にセラミックスを焼き付ける昔ながらの製作方法です。

e.maxクラウンのメリット・利点

審美性が高い

e.maxは、オペーク(金属遮断色)を使用せずに透明感を再現出来るので、天然歯に似せることが可能になりメタルセラミッククラウンより審美性が高い。

(土台に触れる部分の内側に金属を使用しており金属の色を隠す為のオペークカラーが不可欠でした。その上にセラミックスを築盛するという手法なので、その製作を可能にする為に、厚みを取る必要があります。真っ白のオペークの上にセラミックスを築盛するので、天然歯本来の透明感までは再現出来ません。)

耐久性が強い

メタルセラミッククラウンはセラミックスの粉を水で溶いて泥状にしたものを、歯科技工士さんが筆で盛し上げて焼成し、繰り返して色を作り上げていきます。しかし、強度は100MPaしかなく、もっと硬度の高い白い被せ物はありませんでした。

e.maxは、コンピューター制御で工業的に作ったインゴットで製作していきます。e.maxに使用されている二ケイ酸リチウムガラスセラミックスは、丸々400MPaの力に耐えることが可能な為、e.maxの方が耐久性が強いと考えられています。

制作費が安い

e.maxは、貴金属を使用するメタルセラミッククラウンと比較すると製作費自体は安価。患者さんに提供する料金の差はあまりない。

最近は、金属代が安いコバルトクロムなどの金属を使用したメタルセラミッククラウンもあるが、18金やPGA(白金加金)などの展性延性の能力は期待でない上、錆びたり金属溶出によるメタルタトゥーや金属アレルギーなどの懸念もある。

e.maxクラウンのデメリット・欠点

向かない症例もある

メタルセラミッククラウンは、奥歯の欠損や長い欠損のあるブリッジにも適応出来るが、e.maxは破折する可能性が高く適応外

ジルコニアクラウンとの比較

  • ジルコニアによるクラウン
  • e.maxによるクラウン

e.maxクラウンのメリット・利点

耐久性が強い

ジルコニアは1000MPa以上という、歯科用セラミックスの中でも最も硬いのですが、その表面に築成されているセラミックスは80~120MPa程度の力にしか耐えられません。

e.maxに使用されている二ケイ酸リチウムガラスセラミックスは、丸々400MPaの力に耐えることが可能な為、e.maxの方が耐久性が強いと考えられています。

操作性が良い

オールジルコニアは全体がジルコニアでできているため、1000MPaの力に耐えられますが、あまりにも硬すぎて、形態修正や調整がしにくく、硬すぎて噛み合わせる反対側の歯となじみが悪い懸念があり、より繊細で慎重な噛み合わせの調整が必要です。

審美性が高い

透明度はジルコニアよりも高く、天然歯に類似しているのでより審美的

コストが安い

再現性が高い

ハンドメイドで適合が良い

e.maxクラウンのデメリット・欠点

向かない症例もある

ジルコニアは、奥歯の欠損や長い欠損のあるブリッジにも適応出来るが、e.maxは破折する可能性が高く適応外

オールセラミックの比較

ジルコニア e.max
素材 キュービックジルコニア
(人工ダイヤモンド)
二ケイ酸リチウム
強度(曲げ強さ) 800Mpa以上と硬い 360~400Mpaと適度な頑丈さ
透明度 高い より高く天然歯に近い
費用 高額 コスパ良
適合 CAD/CAMの程度による ハンドメイドでより適合もいい

保険適応の銀歯との比較

e.maxクラウンのメリット・利点

身体に優しい

メタルフリーなので金属アレルギーを惹き起させない。

接着出来る

セメント合着(物理的)ではなく、接着性レジンセメントを使用する事で、アロンアルファなどの接着剤の様に「化学的に接着」することで隙間が出来にくい

審美性が高い

周囲の人から天然歯のように見える。ハンドメイドで形態や色彩・質感を調整出来るので、様々な口腔内になじみやすい。ホワイトニング以上に歯を白く見せたい方には向いている。

痛みにくい

金属は熱伝導性が高く冷温痛を感じやすいが、セラミックの方が熱伝導性が低く感じにくい

経年劣化しにくい

口腔内に馴染む硬さなので、レジンのように噛む度に磨り減ったりはしにくい。吸水率が低いために、着色も起きにくい

e.maxクラウンのデメリット・欠点

保険が効かない

保険治療よりは、コストがかかる。

術者の技術が必要

薄過ぎると破折の原因になるリスクもあるので、1mm以上の厚みを確保して削る必要がある。製作する技工士によっても、力量の差が顕著。技工料金にも差がある。

歯を多く削る

削る厚みが多いと、治療後知覚過敏で歯がしみる事がある

水分に弱い

接着性レジンセメントで接着する際の、工程が貧雑でかつ、歯肉出血や唾液・歯肉溝滲出液(歯肉と歯の間から少しずつ流れ出る液)、湿気の混じった呼気、などの水分があるとうまく接着できない。基本的には、歯肉よりも上の部分(歯肉縁上マージン)で接着が確保出来る場合が適応。前歯部分などは審美的なので、術者のスキルと注意が必要。

割れたり折れる事もある

歯軋りや食いしばりなどのパラファンクション悪習癖が強く高頻度の方や、筋肉質や大柄の方、力が強かったりゴルフやウェイトトレーニングなどの際に瞬発的にグッと噛み込む機会が多い方には、破折する危険性がある。

向かない症例もある

応力のかかる長いブリッジや、奥歯欠損のブリッジ、連結して隣の歯と繋げるような治療には不向き。透明感が高いため、良くも悪くも元の色をひろってしまう。

4タイプあるe.maxクラウンの製作方法

ステインタイプ(従来型の単一素材)

ステインといって製作後最終的に色付けを行います。咬合調整などをするとその部分の色はフレーム色となってしまう為、審美性は低いですが、前歯などと異なって大臼歯などでは相手には気づかれない程度の場合が多いです。臼歯部には適していますが、審美性だけの比較をするとレイヤリングタイプには劣ります。

カットバックタイプ(エナメル部のポーセレン築盛)

レイヤリングタイプと比べると強度はありますが、審美性は低く、ステインタイプと比べると審美性は勝りますが強度は劣ります。

レイヤリングタイプ(象牙質、エナメル部のポーセレン築盛)

ナチュラルで審美性が高く前歯に最適ですが、唇面の築盛部の強度は低いので大臼歯部には不向きです。基礎のフレーム部分と、盛り足すレイヤリング部分に異なる素材を用いることで、天然の歯に近い透明感を持ち、色合いも多彩な表現が可能です。

CAD/CAMタイプ

近年では、CAD/CAMでもe.maxが製作できるようにもなってきました。コストが低くなるので価格は抑えられますが、技工士のハンドメイドの適合やシェードにはまだかなわないようです。特に適合は弱く、機械的嵌合力はあまり期待できません。適合が緩いと、接着性レジンセメントの厚みも多くなるので機械的な強度も下がります。セレックなどの製作機材が院内にあれば即日修復や翌日修復出来る場合もあります。

CAD/CAMタイプ資料

製作工程

(1) デザインと型取り
歯を削ってデザインをし、型取り(印象採得)。噛み合わせも採ります(咬合採得)。

(2) 色や質感を選択
色や質感を細かく選択(シェードテイク・テクスチャーテイク)をします。場合によっては、口腔内カメラにて撮影したり、歯科技工士立会いのもと行います。グラデーションや特殊な色の場合や、形態的特徴も技工指示書にオーダーメイドの詳細を記します。

(3) WAX UP
指輪などを製作する工程と似ていますが、超硬石膏という精度の高い石膏で作り上げた模型上で、歯のロウ型を製作します。このロウで歯の形態を決めます。後はロウをセラミックスに置換していきます。

(4) インゴット選択
患者さんの歯に最も類似した色のインゴットを20〜30種類の中から選択し、ロウ型とインゴットを機械にセットします。

(5) 製作
コンピューター制御の下、800度に加熱したインゴットは溶け、鋳型に流し込み、自然冷却をします。

(6) 完成
鋳型から取り出し鋳造体を取り出し、鋳造体をカットしツルツルに研磨し筆で細かな色付け(ステイニング)し、再度高温で焼いて色を定着させたら完成です。

執筆者からのコメント

オールセラミッククラウンの登場で、メタルフリー(金属を使用せず)で審美性も強度も兼ね揃えたクラウンが可能になりました。

e.maxクラウンはオールセラミッククラウンの中でも、審美性が高く丈夫な材質です。費用対効果も高く、様々な製作方法があります。前歯にあった製作方法や、臼歯にあった製作方法がありそれぞれに適応があります。

しかし、長く大きな欠損や連結のあるブリッジなどには、設計的に不適な場合もあるので、その時々に合わせてメタルセラミッククラウンやジルコニアクラウンなどの選択をした方が良い場合もあります。

神経を残せる生活歯に被せた方が治療予後は良いので、可能な限り神経を保存する事も重要です。丸被せしたクラウンが最適なのか、インレーやその他のダイレクトボンディング(ハイブリッドセラミックス※による直接修復)などの詰め物でも対応出来るのか、といったような診断力や技術も問われます。

それぞれの歯科医院の担当医の歯科医師に、相談してみると良いでしょう。無闇矢鱈に神経を便宜的に抜いてしまったり、矯正治療ではないのにも関わらず「スピード矯正」なんて造語を謳ってる医院も残念ながらあります。

「速さ」や「安さ」では選ばない事を強くお勧めします

審美性の為に、不健康になってしまっては本末転倒です。歯科医院を探す際も、なるべく症例数をこなした専門性の高い先生を選ぶ事が重要です。

※ハイブリッドセラミックスはセラミックとレジンを混ぜたもの、ハイブリッドレジンと呼ばれることもあります

公開日:2018年5月10日

この記事の執筆者

櫻田 博雅

櫻田 博雅先生

歯科医師

立川北デンタルオフィス

東京都立川市曙町2-4-4昭和ビル3階

TEL: 042-595-8118

この記事の監修者

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