セレックの見た目(審美性)や適合性は、実際どうなのでしょうか?
セレックによる治療、特にその日のうちに修復を完了させる「ワンデートリートメント」は従来の治療法と比較してもさまざまなメリットがあると考えています。ただ、場合によってはデメリットが生じる可能性がありますので、セレックによる治療が本当に適しているかどうかは歯科医院でよく説明してもらうといいかと思います。
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セレックとは
セレックはコンピューターによって歯の修復物を設計・製作するシステム(CAD/CAM)の一つです。
口の中にペンタイプのスキャナーを入れて歯をスキャンするため、従来のような型取りをする必要がありません。スキャンしたデータはコンピューター上で修復物の設計が行われ、そのデータはセラミックのブロックを削るミリングマシンに送られ、修復物が作製されます。
セレックは世界初の歯科用CAD/CAMとして1985年に誕生し、世界で約4万台が使用されてきました。現行のセレック「オムニカム」は5世代目の量産機として2013年から使用されています。
セレックを代表とした歯科用チェアサイドCAD/CAMとは
歯科医院において、口腔内スキャナーで直接お口の中をスキャンし、コンピューターによる設計・製作を行うシステムを「歯科用チェアサイドCAD/CAM(キャドカム)」と言います。チェアサイドCAD/CAMのさきがけであるセレック登場後、後発のシステムも登場し、現在では日本でも数社のチェアサイドCAD/CAMが使用されています。
修復物の大きさや形状にもよりますが、現在ではソフトウェアの進化、削りだすミリングマシンの性能向上等により、最短1時間でセラミック修復が可能になっています。
セレックを使用した修復物の審美性について
セレックに使用されるセラミックブロックはさまざまな色が用意してありますので、基本的なブロックを使用して作製するだけでも良好な審美性を得られることができます。
ただし、削りだしたブロックは単色もしくはグラデーションカラーですので、患者自身の歯に合わせた細かな着色等はそのままでは再現できません。その場合には出来上がった製作物に着色を施す処置(グレージング)を行ったり、今まで通り技工所で作製、着色を行う必要があります。
また、セレックブロックはレジン(プラスチック)、セラミック、ジルコニア等さまざまな材質があります。材質による色調や経年変化がありますので、使用するブロックの材質については歯科医院で確認されるといいでしょう。
ちなみに当医院ではそれほど審美性を追求しない奥歯に関してはセレックを使用することがほとんどで、自分の歯との細かな色調のバランスを整える必要があるような前歯のケースでは通常通り技工所に依頼しています。
セレックの適合性について
AminSらの研究 1) (2016)によると、セレック オムニカムを使用した光学印象による誤差は口腔全体のスケールで平均46μmとのことで、これは髪の毛の太さよりも細い数値になります。また、この研究ではセレック オムニカムと同一試験を行ったTrue Definition(3MESPE)も従来法の精密な型取りよりも精度が高いという結果が出ており、口腔内スキャナーを用いた光学印象がセレックのみならず優秀なレベルに到達しているといえます。
これらの誤差が少ない理由として、従来法では、型取り、石膏模型作製、セラミックの焼き付け等でそれぞれ誤差が生じるのに対し、セレックによる誤差は口腔内スキャナーによるスキャン時の誤差のみとなっているためです。実際に使用している者としては、装着時の調整が毎回ほとんど必要ないほど精度は高いという感想です。
セレックの予後について
セレックは30年以上の歴史があるシステムですので、予後に対する研究 2) 3) 4) 5) も数多く残されています。
セレックで作製されたインレー(小さな詰め物)およびオンレー(咬む面をある程度覆った詰め物)の5年後の残存率は96%と非常に高い数値を示しています。また、セレックインレーもしくはアンレーを装着後27年後の残存率も87.5%と非常に高い結果を残しています。
これらから、セレックで作製された修復物の予後は非常に良好だと言えます。
セレックによる「ワンデートリートメント」のメリット
個人的な意見として、セレックによる治療、特にその日のうちに修復を完了させる「ワンデートリートメント」は従来の治療法と比較してもさまざまなメリットがあると考えています。虫歯は感染症であるため、仮封材で封鎖しているとはいえ削った歯面を数日間露出しておくことは好ましいことではありません。セレックを使用し、その日のうちに修復物を装着する治療は
- 虫歯を除去した直後に完全封鎖するため、二次う蝕になりにくい。
- 直後の封鎖により術後疼痛(痛む、しみる等)が起こりにくい。
- 歯の硬さに近い素材のため、歯が割れる、欠ける等のリスクが低い。
- 歯と同様に削れるため、長期的にみてかみ合わせの崩壊が起こりにくい。
といったメリットがあると個人的には考えます。
ただ、場合によっては
- 修復物の厚みを得るために歯を大きく削る必要がある。
- 金属よりも歯に近い硬さのため、修復物が割れる、欠ける可能性がある。
- 修復物の大きさや部位によっては1日で治療が完了しないことがある。
といったデメリットが生じる可能性がありますので、セレックによる治療が本当に適しているかどうかは歯科医院でよく説明してもらうといいかと思います。
セレック治療の写真(金属からセレックへ)
参考文献
- 1) Digital vs. conventional full-arch implant impressions: a comparative study.
- Amin S, Weber HP, Finkelman M, El Rafie K, Kudara Y, Papaspyridakos P.
Clin Oral Implants Res. 2017 Nov;28(11):1360-1367. doi: 10.1111/clr.12994. Epub 2016 Dec 31
- 2) 歯科修復物の使用年数に関する疫学調査
- 森田 学,石村 均,石川 昭ほか
口腔衛生会誌 45: 788-793, 1995.
- 3) Buonocore Memorial Lecture. Review of the clinical survival of direct and indirect restorations in posterior teeth of the permanent dentition.
- Manhart J, Chen H, Hamm G, Hickel R.
Oper Dent. 2004 Sep-Oct;29(5):481-508. Review.
- 4) Up to 27-years clinical long-term results of chairside Cerec 1 CAD/CAM inlays and onlays.
- Otto T.
Int J Comput Dent. 2017;20(3):315-329.
- 5) Clinical performance of CEREC AC Bluecam conservative ceramic restorations after five years--A retrospective study.
- Nejatidanesh F et al.
J Dent. (2015)
公開日:2018年1月31日
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この記事の執筆者
倉田 友宏先生
歯科医師
ITI Section Japan Certified Specialist for Implantology(ITI
日本支部公認インプラントスペシャリスト)
日本メタルフリー歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 会員
日本顎咬合学会 会員