インプラントは、10年保証などのある医院で受けたほうが良いですか?
インプラント治療は生涯何の問題も起こさないという保証はありません。「もしも」のこともあらかじめきちんと話し合っておくことが重要です。
医院によってインプラントの治療に対して長期の保証を行っている医院、そうでない医院があります。それぞれの医院の考えがあるかと思いますので、なぜ保証が必要なのか、必要でないのかについて確認し、トラブルが起きた際の治療法や費用についてもあらかじめ話し合っておくことで将来のトラブルの可能性を減らすことができます。
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インプラントの成功とは
インプラント治療の成功の基準は1998年トロント会議で以下のように提唱されました。
インプラント治療の成功の基準
- インプラントは、患者と歯科医師の両者が満足する機能的、審美的な上部構造をよく支持している。
- インプラントに起因する痛み、不快感、知覚の変化、感染の徴候などがない。
- 臨床的に検査する時、個々の連結されていないインプラント体は動揺しない。
- 機能開始1年以降の経年的な垂直的骨吸収は1年間で平均0.2mm未満である。
ですから、インプラントの「成功」とはただ骨の中にインプラントが埋入され、セラミック等の上部構造が装着されただけのことを言うのではありません。話す、噛む等の機能も問題なく、見た目も満足のいく仕上がりで、なおかつ長期的に機能して始めて成功と言えるのです。
インプラントの生存(残存)率について
ただ、これとは別にインプラントが脱落せず口腔内にある状態を「インプラント治療が成功した」と歯科医師側、患者側が思っていることもあります。厳密に言えばこれは「インプラントの生存(もしくは残存)」という言葉で表すことができます。
インプラントの生存率に関してはこれまでもさまざまな報告がありますが、これまでも、そしてこれからも決して100%になることはないでしょう。
2015年、岡山大学等で調査された報告1)では、初期不良率が1.5%、10年累積生存率が94.0%という結果が出ています。また、Eitanらのさまざまな径、長さのインプラント3043本の予後に関する研究 2)では、2年後の残存率は98.7%とどのような条件でも比較的良好な結果が出ています。
パソコンや車といったものと同じように、日常使用するインプラントはさまざまな状況や環境、お手入れの頻度によってトラブルの頻度や使用できる期間が変わるものだということを理解していただけたらと思います。
インプラント治療後のトラブルについて
インプラントを埋入し、骨との結合が確認された後に最終的な補綴物(上部構造)が装着された時点でインプラント治療は完了となります。
しかし、過酷な口腔内環境に常にさらされるものですので、インプラント治療後に起こるトラブルや合併症はあります。口腔インプラント治療指針2016 3) 4) に記載されている治療後のトラブルもしくは合併症は以下のものになります。
インプラント治療後のトラブルや合併症
- インプラント粘膜周囲炎、インプラント周囲炎
- インプラント体の破損
- 連結しているスクリューの緩み、破損
- インプラント周囲骨の吸収による審美障害
- インプラント体の脱落
- 上部構造の破損、緩み
- 対合歯の摩耗、骨吸収
また、インプラント手術やインプラント補綴に関連して起こるトラブル、合併症としては
インプラント手術に関連して起こるトラブルあるいは合併症
- 細菌感染
- 下歯槽神経および他の神経損傷
- 上顎洞炎および上顎洞へのインプラント迷入
- 異常出血、異常疼痛
- 器材の誤飲、誤嚥
- インプラント体のスタック
- インプラント体の動揺、埋入窩の過形成と形成部位の錯誤
- 火傷
インプラント補綴に関連して起こるトラブルあるいは合併症
- インプラント体、アバットメントの破損
- スクリューの緩みや破折
- 器材の誤飲、誤嚥
- 暫間上部構造の破損
- 上部構造の審美障害
- インプラント周囲溝へのセメントの残留
といったものが挙げられます。
インプラントの保証について
最終的な上部構造が装着されるまでは治療が完了しないため、どこの歯科医院でもインプラント手術や補綴に関連して起こるトラブルや合併症に関しては保証もしくは補償を行うかと思います。
しかし、最終補綴終了後の保証に関してはインプラント治療は自由診療(保険外診療)となりますので、医院によって保証期間、保証の範囲が異なります。
保証がある医院の場合
家電量販店で家電を買う際に長期保証がつけられるように、インプラント治療に関しても保証をつけている歯科医院は多くあります。5年から10年といった保証をつけている医院が多いですが、確認すべき点は
インプラントの保証のチェックポイント
- 保証期間
- 保証範囲(インプラント体と上部構造では期間が異なることが多い)
- 保証加入金額(別途の場合もあるし、治療費に組み込まれていることもある)
- 保証の際の治療費(無償~数万円)
といったものが挙げられます。前述したように、100%成功する治療ではありませんので治療前にしっかりと確認しておくといいでしょう。
また、長期にインプラントを良好に使っていただくには定期的な医院でのメンテナンスが欠かせません。保証がある医院の場合にはこのメンテナンスを定期的に受けることが保証の条件になっていることがあります。これらのメンテナンスの間隔や費用についても確認しておくといいでしょう。
保証がない医院の場合
保証をつけている医院の場合、「院内で保証をつけている」ケースと「外部業者に委託して保証をつけている」ケースがあります。外部業者に委託している場合、保証料は治療費に加わります。
保証がついていない医院では、そのような費用が加わっていないため、複数の医院で見積もりを取った場合に治療費の総額が安くなることがあります。
治療費の安さにつられるのではなく、その医院の説明や歯科医師に信頼がおけるのであれば治療を検討されてもいいかと思います。
また、保証がないのではなく、単に説明がない場合もあります。インプラント治療の前には治療費の見積書や同意書を受け取りますが、保証について記載がない場合には確認し、保証に関しても必ず文書として残しておくようにしましょう。
参考文献
- 1) A longitudinal retrospective study of the analysis of the risk factors of implant failure by the application of generalized estimating equations.
- Noda K, Arakawa H, Kimura-Ono A, Yamazaki S, Hara ES, Sonoyama W, Maekawa K, Okura K, Shintani A, Matsuka Y, Kuboki T.
J Prosthodont Res. 2015 Jul;59(3):178-84.
- 2) Implant Diameter and Length Influence on Survival: Interim Results During the First 2 Years of Function of Implants by a Single Manufacturer.
- Mijiritsky E, Mazor Z, Lorean A, Levin L.
Implant Dent. 2013 Aug;22(4):394-8.
- 3) 口腔インプラント治療指針2016
- 公益社団法人日本口腔インプラント学会 2016.4.25
- 4) 日本歯科医学会 歯科インプラント治療指針
- 日本歯科医学会 2013.3
公開日:2018年5月19日
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この記事の執筆者
倉田 友宏先生
歯科医師
ITI Section Japan Certified Specialist for Implantology(ITI
日本支部公認インプラントスペシャリスト)
日本メタルフリー歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 会員
日本顎咬合学会 会員