万が一インプラント治療後にトラブルが起きた場合、再治療は有料ですか?
インプラント治療が終了した後、さまざまな要因によりトラブルが起こる可能性があります。また、お口の中の環境は非常に過酷なため、快適に使用していても長期間の使用によりトラブルが生じることもあります。医院によって保証の期間や範囲が異なるため、治療を受ける前に確認しておくといいでしょう。
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インプラントの生存率は100%ではない
インプラントの生存率に関してはこれまでもさまざまな報告がありますが、これまでも、そしてこれからも決して100%になることはないでしょう。
2015年、岡山大学等で調査された報告 1)では、初期不良率が1.5%、10年累積生存率が94.0%という結果が出ています。また、Eitanらのさまざまな径、長さのインプラント3043本の予後に関する研究 2)では、2年後の生存率は98.7%とどのような条件でも比較的良好な結果が出ています。
ただ、どちらの結果でもインプラント治療終了後1,2年の間に1~2%は初期のトラブルが生じるという結果が出ています。
また、Mohanty らのインプラントの長期予後を調べた研究 3)では、8~10年後のインプラント生存率は70.7%~86.3%という結果が出ています。上記の報告と同様に長期的にみるとインプラントのトラブルは生じやすい傾向にあると言えます。
インプラント治療後のトラブルについて
インプラントを埋入し、骨との結合が確認された後に最終的な補綴物(上部構造)が装着された時点でインプラント治療は終了となります。
しかし、過酷な口腔内環境に常にさらされるものですので、インプラント治療後に起こるトラブルや合併症はあります。口腔インプラント治療指針2016 4) 5)に記載されている治療後のトラブルもしくは合併症は以下のものになります。
インプラント治療後のトラブルもしくは合併症
- インプラント粘膜周囲炎、インプラント周囲炎
- インプラント体の破損
- 連結しているスクリューの緩み、破損
- インプラント周囲骨の吸収による審美障害
- インプラント体の脱落
- 上部構造の破損、緩み
- 対合歯の摩耗、骨吸収
インプラントの保証について
最終的な上部構造が装着されるまでは治療が完了しないため、どこの歯科医院でもインプラント手術や補綴に関連して起こるトラブルや合併症に関しては保証もしくは補償がある歯科医院が多いです。ただ、医療行為は基本的に「準委任契約」となりますので、術後に生じる偶発症の責任を取らねばならないというものではないことはご理解いただけたらと思います。
準委任契約とは
「契約」には「請負契約」と「準委任契約」があります。請負契約とは請負人が仕事を完成することを請け負い、依頼者がそれに対して報酬を支払う契約です。それに対して準委任契約とは請負人が行った行為に対して報酬を支払う契約です。
医療行為は最善の努力をして処置にあたっても残念な結果になることがあります。心臓病などの手術に置き換えて考えていただくとわかりやすいかと思います。手術は「必ず成功する」ものではないため、「成功」に対して報酬が払われるということはありません。
最終補綴終了後の保証に関してはインプラント治療は自由診療(保険外診療)となりますので、医院によって保証期間、保証の範囲が異なります。
家電量販店で家電を買う際に長期保証がつけられるように、インプラント治療に関しても保証をつけている歯科医院は多くあります。また、現在では歯科医院内での保証ではなく、院外の業者に依頼しているところもあります。
一般的には5年から10年といった保証をつけている医院が多いですが、確認すべき点は
インプラント治療後の保証のチェックポイント
- 保証期間
- 保証範囲(インプラント体と上部構造では期間が異なることが多い)
- 保証加入金額(別途の場合もあるし、治療費に組み込まれていることもある)
- 保証の際の治療費(無償~数万円)
といったものが挙げられます。前述したように、長期経過が100%良好というものではではありませんので治療前にしっかりと確認しておくといいでしょう。
もしすでに治療を行った方で、保証に関する文書を受け取っていない場合にはトラブルが生じる前に保証の有無や範囲について確認しておいてください。
また、長期にインプラントを良好に使っていただくには定期的な医院でのメンテナンスが欠かせません。保証がある医院の場合にはこのメンテナンスを定期的に受けることが保証の条件になっていることがあります。これらのメンテナンスの間隔や費用についても確認しておくといいでしょう。
参考文献
- 1) A longitudinal retrospective study of the analysis of the risk factors of implant failure by the application of generalized estimating equations.
- Noda K, Arakawa H, Kimura-Ono A, Yamazaki S, Hara ES, Sonoyama W, Maekawa K, Okura K, Shintani A, Matsuka Y, Kuboki T.
J Prosthodont Res. 2015 Jul;59(3):178-84.
- 2) Implant Diameter and Length Influence on Survival: Interim Results During the First 2 Years of Function of Implants by a Single Manufacturer.
- Mijiritsky E, Mazor Z, Lorean A, Levin L.
Implant Dent. 2013 Aug;22(4):394-8.
- 3) Risk Assessment in Long-term Survival Rates of Dental Implants: A Prospective Clinical Study.
- Mohanty R, Sudan PS, Dharamsi AM, Mokashi R, Misurya AL, Kaushal P.
J Contemp Dent Pract. 2018 May 1;19(5):587-590.
- 4) 口腔インプラント治療指針2016
- 公益社団法人日本口腔インプラント学会 2016.4.25
- 5) 日本歯科医学会 歯科インプラント治療指針
- 日本歯科医学会 2013.3
公開日:2018年6月25日
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この記事の執筆者
倉田 友宏先生
歯科医師
ITI Section Japan Certified Specialist for Implantology(ITI
日本支部公認インプラントスペシャリスト)
日本メタルフリー歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 会員
日本顎咬合学会 会員
執筆者からのコメント
最後に、インプラント治療を行った医院以外で再治療を希望される場合には、当然ながら費用がかかってしまうということをご理解いただけたらと思います。
現在住んでいない土地でインプラント治療を希望されたり、転勤が多い方などはインプラントのメンテナンスや保証に関してもしっかりと話し合っておくことが重要です。