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インプラント治療前にCT検査は絶対に必要ですか?

インプラント治療は、目視することができないあごの骨の中に人工の歯根を埋め込む治療となります。口腔内の歯肉の状態やレントゲン写真による骨量の確認である程度の予測は立ちますが、骨幅や神経・血管の詳細な情報が得られないため、確実なインプラント治療を行うためには三次元CTによる術前診断が必要となります。

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インプラントの画像診断について

インプラント治療を行う前には、インプラントを埋入する部位を含めた全顎的な画像による診断が必要となります。

インプラント画像診断の目的

  • 1.術前の顎骨の骨量、骨質の検査
  • 2.治療計画シミュレーションへの利用
  • 3.ガイドサージェリーや CAD/CAM の応用
  • 4.インプラント治療の障害となる疾患のサーベイ
  • 5.インプラント治療へのインフォームドコンセント
  • 6.インプラント治療後の経過観察
※口腔インプラント治療指針2016

また、日本歯科放射線学会のインプラント画像診断ガイドラインで推奨する画像検査法として、

日本歯科放射線学会のインプラントの画像診断ガイドラインで推奨する
画像検査法

  • 初診時:パノラマエックス線検査および口内法エックス線検査(顎骨の骨量や骨質および障害となる疾患のスクリーニングも行う)
  • 術前画像検査:診断用ステントを用いたCT(MDCT あるいは CBCT)
  • 検査・経過観察時:口内法エックス線検査(二等分法、平行法)
  • 緊急時(広範な骨吸収や骨髄炎などの重篤な疾患併発時):CT検査

となっており、術前での三次元CTによる検査及び診断は必要なものとなっています。

また、厚生労働省によるインプラント治療指針でも

術前診査として全身状態、局所状態の把握は重要で、局所状態としてオルソパントモグラフは勿論であるが、安全で的確な診断とインプラント治療を行うため、CT撮影によって三次元的な診査が必要である。

と記載されています。

現在では、これらのCT画像は様々な解析ソフトを用いて術前にインプラントの位置や方向、インプラントサイズを決定することが可能であると共に、インプラントの位置や方向をガイドするサージカルガイドプレートの作製に役立っています。

パノラマX線写真

歯の状態や骨の状態をおおまかに判断できます。

パノラマX線写真例

CT画像

骨の状態や神経の走行等を三次元的に判断できます。

CT画像例

安全なインプラント治療を行うために

インプラント治療時に関わる代表的な偶発症、合併症はこれらが挙げられます。

表9 ※厚生労働省、日本歯科医学会「歯科インプラント治療指針」

概要・原因等 注意点・対処法
神経損傷
  • 三叉神経、舌神経、頬神経などの損傷
    特に、下顎臼歯部の手術における下歯槽神経損傷の頻度は高い
  • 損傷すると回復は困難、治療も長期にわたる
  • CT 等を用いた術前検査にて神経の走行を確認し、埋入方向・深度に注意を払う
上顎洞炎
  • 埋入形成窩が上顎洞と近接している場合、上顎洞粘膜への穿孔、上顎洞底挙上術実施時などでおこる
  • 先ずは抗菌薬投与によって消炎を図るが、重篤であればインプラント撤去、上顎洞根治手術等の可能性もある
上顎洞内異物迷入
  • 上顎臼歯部で埋入窩形成時に穿孔、器具やインプラント体の押込みや、カバースクリューなどが落ちてしまうケースが多い
  • 埋入窩からアプローチできない場合は、上顎洞前壁を開窓する必要がある
異常出血
  • 下顎管や口底部のドリル穿孔によって主要な動脈を損傷した場合などにおこる
  • 基本的には圧迫止血、困難であれば血管結紮や電気メスによる出血点の凝固を試みる
  • 止血困難で出血点が確認できない場合は速やかに高次医療機関に搬送する

*これ以外にも、内出血・血腫、異常疼痛、開口障害、器具の誤飲・誤嚥、アレルギー(金属、薬剤)などがある。

こちらでは神経損傷や異常出血、上顎洞の穿孔、異物の迷入は歯科医師の診断技術の未熟さに起因するだけではなく、むしろインプラント治療の患者数や埋入本数が多い歯科医師は、難症例やリスクの高い手術を行っているため、その経験頻度は増えると記載されています。

ですから、インプラントの経験、実績が豊富だからといっても安全なインプラント治療を行うためにはCTによる検査を行うべきだと私は考えます。

歯科用CTの被ばく量について

エックス線やCTによる検査を行う場合、意識すべきは撮影による放射線被ばく量です。
いくら検査のためとはいえ、不要な被ばくを与えるべきではなく、常に少ない被ばく量で済むように歯科医師は考慮しなければなりません。
一般公衆の年間線量限度は「1mSv(ミリシーベルト)」と決められています。

歯科で撮影するレントゲン、CTの被ばく量(おおよそ1回あたり)

口内法エックス線0.01mSv
パノラマエックス線0.03mSv
歯科用CT0.1mSv

ちなみに医科用CT検査は1回で6.9mSvとなり、医科と比較して限局的な範囲のみを調べる歯科用CTの被ばく量は非常に少なくなっています。

執筆者からのコメント

日本人が一年間に浴びる自然放射線量が平均1.5mSv(世界平均は2.4mSv)で、東京~ニューヨーク間一往復で浴びる放射線量が0.2mSvということを考えても、必要最低限のCT撮影から得られるさまざまな情報は、放射線被ばくを考慮しても余りあるメリットがあると考えられます。

参考文献

公開日:2019年1月30日

この記事の執筆者

倉田 友宏

倉田 友宏先生

歯科医師
ITI Section Japan Certified Specialist for Implantology(ITI
日本支部公認インプラントスペシャリスト)
日本メタルフリー歯科学会 認定医
日本口腔インプラント学会 会員
日本顎咬合学会 会員

くらた歯科医院

長野県上伊那郡南箕輪村3444

TEL: 0265-76-1610

この記事の監修者

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